タイトル 『いじめのある世界に生きる君たちへ』
~いじめられっ子だった精神科医の贈る言葉
著者 中井久夫
発行年 2016年12月10日
出版社 中央口論新社
この本の対象読者
今まさに“いじめ”の中に生きている子どもたちへ!
そして
子どもの周りにいる親や教師をはじめとする専門家、子どもにかかわる行政で働いている方々
(本書あとがきp-90より)
著者のいじめに対する考え方
中井久夫。言わずと知れた日本を代表する精神科医です。
私がよく読んでいる滝川廣一さんの先生でもあります。
その中井氏の名著『いじめの政治学』をかみ砕いて、子どもたちが読めるように、
特にいじめられている子どもたちに読まれることを願って書かれたものです。
“いじめを人間奴隷化のプロセスととらえ、それが3つの段階をへて完成していく
ことをきし”(あとがきp-86)ています。
そして、言います。
いじめのかなりの部分は、学校の外で行われれば立派な犯罪です。では学校の中で行われればどうでしょうか?
「罪に問われない、学校は法の外にある」という考え方は、多くのひとがもっているかもしれませんが、ただの錯覚です。
と。
いじめは「犯罪」と考えられるかどうかが決め手
いじめは深刻な場合、子どもの命を奪います。
私たち大人は、この深刻ないじめから子どもの命を守ることが大きな課題です。
その時に、いじめを犯罪と考えられるかはその後の対応に大きいな違いを生じさせます。
「いじめられる方にも問題がある」という人たちがいます。
これは単なる言い訳にすぎません。
いじめを正当化する言い訳です。
許されることではありません。
いじめをなかなか認めない学校と教育委員会があります。
「学校は、いじめている子もいじめられている子も守る義務がある。」
などともっともらしいことを言う。
そうであるなら、しっかりと事実を認め、どのように指導したのかの説明を
する責任が伴います。
まさに、中井氏が言いう「学校は法の外にある」という考えから抜けられない
学校の体質です。
いじめられている子どもには「何の問題もない」こと。
いじめが「どんなに巧妙に人間を追い込むものか」を
しっかりと大人が理解することが必要です。
私が印象に残っている小節
いじめのワナのような構造の、君は犠牲者であるということを話して聞かせ、
その子のかかえている罪悪感や卑小感や劣等感を軽くしてゆくことが最初の目標でしょう。
道徳的な劣等感は不思議なことにいじめられっ子が持ち、いじめっ子のほうは持たないもので
す。
この本を進める理由
この本を進める理由。
それはこの本のあとがきで書かれていたのですが、この本を
「読むか読まないかでは、いじめへの対応が全然違ってくると思う」(p-85)
からです。
この本の対象読者として挙げた方々(「子どもの周りにいる親や教師をはじめとする専門家、
子どもにかかわる行政で働いている方々 p-90)にぜひ読んでほしいと思います。
100ページほどの分量です。
本を読みなれている方であれば、30分もあれば読めます。
関連する本
この本のもととなっている『いじめの政治学』(中井久夫著)
『心的外傷と回復』(ジュディス・ルイス・ハーマン著、中井久夫訳)
『心的外傷と回復』は心のケアにかかわる方々にとってバイブルのような本です。
学校関係者でもこの本を手にした方々は多かったと思います。