『ブリジット・ジョーンズの日記』や『エリザベス』などのユーモアと笑いに溢れた映画を作ってきたプロデューサーであるジョナサン・カヴェンディッシュ。彼が新作として送り出したのは自分の両親の生涯を描いた物語です。
病に冒されながらもポジティブに人生を謳歌し、家族や友人たちと絆を深めた父、ロビン・カヴェンディッシュ。人工呼吸器と共に幸せな人生を生きた父親と家族の物語は、レジリエンスのヒントがたっぷりと詰まった感動的な映画になりました。
ここでは、映画から受け取れるレジリエンスなメッセージを紹介します。
*文中に使用している画像は全て、『ブレス 幸せの呼吸』公式ホームページからのものです
『ブレス 幸せの呼吸』のあらすじとキャスト
監督:アンディ・サーキス
制作:ジョナサン・カヴェンディッシュ
出演:アンドリューガーフィールド(ロビン)
クレア・フォイ(ダイアナ)
制作等:2017年 イギリス
日本公開2018年9月
あらすじ
運命的な恋に落ち、家族や友人に祝福されて結婚し、最高に幸せな日々を送っていたロビンとダイアナ。ところがある日、出張先のナイロビで突然ロビンが倒れてしまいます。診療結果はポリオ。首から下が完全に麻痺し、人工呼吸器なしでは息もできない状態になります。
時は1959年。医師からは「余命数ヶ月」と宣告されます。英国に戻り息子が生まれましたが、ロビンは絶望の中にいました。病院を出たいと望むロビンのために、医師の反対を押し切り自宅で看護する決意をするダイアナ。無謀とも言える彼らの決断は、ロビンの運命を大きく変えていく事となる・・・。(一部パンフレットから引用)
『ブレス しあわせの呼吸』からのレジリエンスなメッセージ
この映画を重度障害者が社会で生きるノーマライゼーションの映画という切り口で説明もできると思います。実際にロビン・カヴェンディッシュは、映画で登場した人工呼吸器つきの車椅子の開発に始まり、生涯に渡って障害のある人達の生活をより豊かにすることに力を注いできました。頭で操作できる電話、テレビなども商品化に尽力したと言われます。そして64歳まで生きています。1995年には障害を持つ人達のためにロビン・カヴェンディッシュ記念基金が設立されています。
でも、ロビン・カヴェンディッシュの逆境を乗り越えてきた姿に焦点を当てたとき、たくさんの生きる勇気とヒントを与えてくれます。それはまさに、ロビンのレジリエンスの高さを物語っています。僕は、この映画がロビンのレジリエンスをどう表現してきたかということにとても興味がわきます。
レジリエンスなメッセージ1 PTG(ポスト・トラウマティック・グロース=心的外傷後成長)
出張先でポリオに感染し、首から下が完全に麻痺したことを知ったロビンの絶望はどれほどのものだったでしょう。絶望の中にあったロビンは生まれたばかりの息子をもみることはありませんでした。しかし、ダイアナの献身的な看病の中、精神的な落ち着きを取り戻し、少しずつ前を向きはじめます。そして、ついに病院から出ることを決意します。そして、この決断から人生が変わりだします。
トラウマ的な出来事は私達の世界観を粉々にしてしまいます。しかし、そのような衝撃的な経験で、激しく傷ついたとしても、その後人間として成長することがあることもまた、私達はこの映画から学ぶことができます。
それをレジリエンスでは、PTG(ポスト・トラウマティック・グロース=心的外傷後成長)と呼んでいます。
PTG研究からは、
- 「ストレスが大きくトラウマになるような経験から、前向きな何かを見出すことがある」
- 「より強固な関係性、人生の目的や哲学の発見、優先順位の変化がみられことがある」
- 「トラウマに対処した結果から生まれるものがある」
などの知見が見出されています。
ポリオウィルスに感染し首から下が完全に麻痺したロビンが、その現実を受け入れ、「障害があっても社会で幸せに生活することを望む」といって病院を退院し、生涯に渡って障害のある人達の生活を豊かにすることに力を注いだ事実こそ、まさにPTGの姿です。
ここから見出されることは、ロビンはPTGによって
- 自分自身のことだけでなく、同じように障害を持ち病院で寝たきりの人たちへも関心を向けるようになったこと。
- 自分と他の人との絆の価値を知ったこと。
- 自分の今持っているもの(家族・友人)を再認識し、ポジティブな感情を持ったこと。
があげられます。
レジリエンスなメッセージ2 I haveの力~ソーシャルサポート(信頼できる人や助けになってくれる人を持つ)
レジリエンス研究では、レジリエンスを高めるために4つの要素(Four Resilience Muscles=4つのレジリエンス筋肉)が必要だと言われています。
ロビンは、ダイアナの無償の愛と兄弟・友人との深い絆持っていました。
寝たきりになってから死ぬことばかりを考え、絶望の淵にいたロビンを助け出したのは、ダイアナの献身的な看護と無償の愛です。そして、障害があっても社会の中で幸せに生きることを助け、また、自分と同じように障害をおっている人たちの生活を豊かにする活動を支えたのは、深い絆で結ばれた兄弟と友人たちでした。
レジリエンスなメッセージ3 I canの力~自己効力感(私は~ができると思える)
人工呼吸器付きの車椅子のヒントを乳母車から得たロビンは、友人の科学者テディに頼み自分の人工呼吸器付き車椅子を完成させてしまいます。そして、助成金を集めることに奔走し、ロビンが入院していた同じ障害の仲間たちにも人工呼吸器付き車椅子を広め、やがて、障害者の人権運動を進める医師と共に、ドイツでの講演にまで活動を広げていくのです。
まとめ
人工呼吸器と共に幸せな人生を生きた男の物語 『ブレス しあわせの呼吸』の見どころをまとめると
- PTG(ポスト・トラウマティック・グロース=心的外傷後成長)がすごい!
- 信頼できる人や助けになってくれる人との絆がすごい!
ということになります。
この映画は、障害を持った方に限らず、すべての人を勇気付ける、レジリエンスでポジティブなメッセージをがたっぷりと詰まっていました。それは
- 「どんな逆境にいようとも、幸せになる道はきっとあり、それは自分で選択できる」と思えること(PTG)
- 「支えてくれる人がいれば何かを成し遂げることができる」と思えること(ソーシャルサポート・自己効力感)
- 「自分の幸福の価値観を、他の誰かにも広めることができる」と思えること(PTG・自己効力感)
人が幸せに生きて行くためのレジリエンスなヒントであり、実際に障害者の生活を劇的に良いものへと変えた尊い人間の姿を描いた映画です。
人間らしい生活や幸福感、生きがいなどを尺度とするQOL(クオリティ・オブ・ライフ)とは・・・。考える切っ掛けになってほしいですね。